[コメント]

さて、フェイスリフト手術の方法は、どのクリニックでも、また、どの形成外科専門医でも同じ手術をするわけではありません。担当する医師の技術レベルや専門性によって、簡易(インスタント)手術から超本格手術まで段階があるのです。

もちろん、レベルが高いほどフェイスリフト効果も現れやすいといえます。しかし、レベルが高い手術ほど費用も高くなるかといえば、そうでもありません。比較的安価でも高度な手術を心がけている形成外科専門医もいます。

逆に、そこそこの手術費用を取っている割に簡単な手術で終わらせているところも多いようです。

では、良いフェイスリフト手術、あるいは効果的なフェイスリフト手術を丁寧に行っている医療機関をどう見つけるかを探ってみましょう。

まず、担当医との面談です。どのような手術を行うのか、説明を聞いてみましょう。担当医の説明に医学的に根拠があることが大切です。解剖学的な顔の成り立ちから、SMAS(顔の全ての表情筋と棒状筋膜、側頭筋膜、広頸筋で構成される膜状の組織)の吊り上げが大切なことが分かります。

顔の構造を簡単な図で示します。

顔の皮膚の下は脂肪層があり、その下にSMASが広がります。SMASは深部リガメントに支えられています。あたかもSMASがテーブルの台で深部リガメントがテーブルの足のような構造です。
深部リガメントは、その底面を深在の筋肉や骨膜に伸ばしています。深部リガメントの間を縫うように、顔面神経が網目のように這っていると考え理解してください。

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さて、顔の老人顔、つまり顔の弛みは、皮膚ばかりでなくSMASが弛むことが大きな原因です。

すなわち、フェイスリフト手術の最大のポイントはSMASの弛みの改善であることがわかっていただけると思います。

ここで、SMASと深部リガメントの関係を柱と天蓋に例えてみましょう。

雨をしのげる、天蓋のあるオープンエアのカフェを想像しましょう。

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まだ新しい天蓋がピンと張っています。
これは、若い顔におけるSMASの状態と考えます。

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年期がたち、古くなった天蓋は弛んできます。
つまり、老化した顔のSMASの状態を模倣しています。

ここで古くなって弛んだ天蓋をピンと張り直す工事を考えましょう。新材料は使わない条件です。

柱から左側の天蓋を引っ張っても、柱から右側の天蓋は弛んだままですよね。これでは意味がありません。

フェイスリフト手術でいうと、耳の周りの皮膚をちょっと切って引っ張っただけ、または、皮膚だけでなくSMASもちょっと引っ張っただけ、という手術法に例えられます。

そこで、右側の天蓋の一部を切り取り、柱を右側に移動させ固定すれば、全体に天蓋はピンと張り直せるでしょう。

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この理論が、フェイスリフト手術法でいうところの、「ハムラ法」なのです。

SMASの下を大きく剥離し、深部リガメントを切断し、これを新しい所に固定することでSMASを引き延ばすのです。SMASを介し、顔の皮膚の筋(ほうれい線やマリオネットライン(ジョウル)、ゴルゴ線(ミッドチークライン)を目立たなくするのです。

こういうと、簡単に聞こえますが、顔面神経が張り巡らされた、SMASの下を剥がす行為は、なかなか危険な匂いがして緊張の連続になるものです。

この手術では、多数の手順を順番に進め、丁寧な手術を行うと、両側で8時間以上かかってしまいます。しかも、患者さまは首をうんと曲げた状態で片方4時間以上もそのままの姿勢を保たねばなりません。そのため、フェイスリフトを安全に確実に行うためには、全身麻酔が必須な要素になるわけです。全身麻酔で長時間手術となれば、術後は入院が必要です。

では、静脈麻酔でこの手術ができるかといえば、不可能だといえます。なぜかといえば、静脈麻酔では筋弛緩薬を使わないためです。全身麻酔で使用する筋弛緩薬は首の筋肉を柔らかくし、フェイスリフト手術の際起こりやすい頸椎症を防ぐのに必須な条件なのです。

つづいて、もう少し新しい概念を示します。

伸びてしまった天蓋を畳み込み、現在ある柱をそのまま利用してこれに支えさせれば簡単に天蓋を修理できるわけです。

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この理論が、フェイスリフト手術でいう「ベーカー法」です。

ハムラ法に比べるとSMASの下の操作がないため、顔面神経や血管を傷つける心配がありません。また、リガメントを切断しないためSMASの支えが安定的なのです。手術時間もハムラ法と比べるとかなり短い56時間程度で済みます。

だからといって、静脈麻酔で行うのは頚椎症などの合併症はもとより、患者さまの苦痛を招きますので全身麻酔での手術が望ましいといえます。

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フェイスリフト手術は丁寧な手術手技で行えば、ハムラ法でもベーカー法でも良い結果が出せると考えます。

[まとめ]

良いフェイスリフト手術を受けるための主治医選びの条件をまとめました。

  1. 担当医が日本形成外科学会の専門医の資格を有している。
  2. 全身麻酔で手術を行う。麻酔は麻酔科専門医が行う。
  3. 入院設備が整っている病室で手術後入院をさせる。
  4. 手術時間は最低でも4時間程度かけている。通常であれば6時間から8時間くらいはかかると説明される。
  5. 術後吸引ドレーンを必ず使用する。
  6. 術後3日程度は包帯を必ず巻く。

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[概要]

「フェイスリフト手術を受けたけど、ぜんぜん効果がなかった。」

こういったことで相談にいらっしゃる患者様は少なくありません。さらに、「傷跡がすごく目立って困る!」ということで、手術跡をみると、確かに!・・ひどい、こともよく目にします。

最近では、フェイスリフトを行うクリニックがとても多くなった気がします。しかし、大抵が糸を使ったフェイスリフトだったり、入院をさせない、2時間くらいで手術が終わる簡易フェイスリフトだったりするようです。

フェイスリフトといっても実に簡単な手術もあれば、かなり複雑な手術技術を要する本格的フェイスリフトもあります。

フェイスリフトを手がける形成外科専門医の中には、6時間以上かける精密な手術を行う医師もいるのです。

さて、効果もあり、傷跡も目立たない、そんなフェイスリフト手術とはどんなものなのでしょう。

[症例]

Patient) 去年、他のクリニックでフェイスリフトを受けました。術後ちょうど1年になります。

でも、まったく変わらなかったんですよ。ほうれい線も、口もとの弛みも、昔のまんまです。

しかも、ほら、みてください。

耳の前の傷跡がすごく目立つんです。耳たぶも、下に引っ張られて、丸みがなくなってしまったんです。

すごく変です!

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Doctor) 確かに、傷跡はしっかり目立っていますね。もう手術を受けて1年経過していますので、本来であれば、傷跡はかなり目立たなくなっているはずです。

ところで、手術は、全身麻酔で行ったのでしょうか?
また手術時間はどれくらいかかったのでしょう?

P) 麻酔は全身麻酔ではなく静脈麻酔といわれていました。入院はしませんでした。手術後かなり気分が悪かったのですが、タクシーで帰れと言われ、強引に帰されました。ホテルに帰ってから、不安でしょうがなかったんです。

手術時間は2時間くらいだったと思います。手術後、休息室で2時間くらい休んだと思います。回復室を出るときに時間を確認しましたから。

手術当日はあまり説明もなく、承諾書にサインを書かされ、すぐ、点滴を入れると、手術室に案内され、「眠くなりますよ」とだけ言われました。

帰るときは、包帯ではなくバンドのようなもので顔を固定され、帽子をかぶった状態でホテルに帰りました。顔はそれほど腫れていませんでした。

D) その後、主治医の先生の診察はどういった具合でしたか?

P) 手術後3日目に診察に行きました。バンドを外され、消毒の仕方を習いました。バンドを外したもの、消毒の仕方を教えてくれたのも看護婦さんでした。担当医の先生はその間ちょっと傷を見て、「うまくいってますよ。」と一言だけ声をかけてくれました。

D) 抜糸もそのクリニックで行ったんですよね。

P) はい、でも、抜糸は看護婦さんか、もしかしたら別の女医さんだったのかもしれません。
担当の主治医の先生はいらっしゃいませんでした。

D)その後の経過のチェックなどの診察予定はどのようでしたか?

P) 特に指定されませんでした。何かあったら、連絡してください、とだけ受付の方に言われ、そのまま帰りました。

一度、クリニックに電話を入れ、診察が必要かどうかを聞いたのですが、とくに来なくて良いと、けんもほろろでした。

D) では、拝見してみましょう。

ほうれい線はまだしっかり出ていますね。ジョウル(マリオネットライン)も長いですよね。頬の中心が少しえぐれた感じで丸みが出ていません。

どうやら、フェイスリフトの手術評価として、エイジングの改善の評価は少ないと感じます。

P) いや、それどころか、顔のたるみはまったく変化していないのです。

たしかに、手術直後は腫れていなかったのですが、翌日の朝、寝て起きてみたら、すごく腫れてびっくりしました。腫れが少し落ち着き目が開きやすくなったのが術後4日以上たってからです。その後1ヶ月ほどたってから、やっと落ち着き始めました。最初の1週間で、ほうれい線も薄くなり、マリオネットラインも少なくなったように感じました。また、頬もふっくらして、たしかに若返ったように思います。

ところが、2ヶ月ほどで、腫れが完全に引くと、みるみるうちにもとの顔に戻ってしまったのです。

むしろ、目が吊った感じで、前より変な顔になりました。

その頃の傷跡はかなり引きつれて盛り上がり真っ赤、というか真っ黒な、すごく目だったものになりました。特に耳たぶが引き連れ、前の方に伸ばされてしまいました。

手術を受けたクリニックに何回も行って相談してみたのです。でも、落ち着けば良くなる。いずれ時間が経てば傷跡はほとんど見えなくなる。という説明のくり返しです。だんだん担当医に信頼がもてなくなり、診察にさえ行かなくなりました。

いろいろ調べたあげく、酒井形成外科のHPにいきあたり、とてもよく説明されていて、わかりやすかったので、ご相談に伺いました。

D)わかりました。

どうやら、今回あなたが受けたフェイスリフトは皮膚だけを引っ張り上げた、簡易的フェイスリフトだったようですね。本来のフェイスリフト手術では、皮膚と皮下のSMAS(表情筋を含む筋肉と筋膜の層)は別の方向に引き上げていきます。

SMASは深部のリガメントで固定されているため、これを外すかリガメントの付着部でSMASを釣り上げなくてはなりません。その上で皮膚を伸展させ、余剰皮膚を切除するわけです。

耳たぶのところでは、引き込まれやすくなりますので、耳介後部とこめかみの部位でしっか皮膚の固定をします。こうすると耳が前に引っ張られて伸びてしまうことはなくなります。

また、傷跡が目立つのは、縫合技術が足りなかったのかもしれません。私たち形成外科専門医は、傷跡を目立たなくする特殊な縫合法を用います。これには多少の訓練が必要なのです。

P) では、現在の私の今の状態は治すことができるのでしょうか?

D) もちろんです。

まず、傷跡は切除してしまいます。そして、皮下の脂肪層でほうれい線近くまで剥離を進めます。これはちょうどAMASの表面ということになります。

頬のもっとも高いところからエラの先に向かって 深部リガメントが並んでいますので、そこを超え、皮膚を剥離します。この深部リガメントの並びを挟む様にSMASを縫縮、または切除縫縮していきます。すると、ほうれい線やマリオネットラインはSMASにより引き上げられていきます。同様にエラ部の下のSMASも縫縮(切除縫縮)を行います。つづいてこめかみの部位(側頭部)のSMASも縫縮しながら釣り上げていきます。

これで、SMASは皮下でピンと張りつめた事になりますね。

この後、皮膚を上方向に釣り上げ固定していきます。けっして外側に顔を引っ張る様にはしません。外側に引っ張るといわゆる「フェイスリフト顔」という怖い表情になってしまうのです。

P) でも、皮膚を広く剥がすって、神経や血管は大丈夫なのでしょうか?よく顔面神経麻痺の話を聞きます。

D)顔面神経や大切な血管はSMASの下に広がっています。SMASの上にはありません。今説明したフェイスリフト手術法では、SMASの下はほぼ触りませんので、顔面神経を傷つけることは無いはずなのです。

P)耳にしたことがあるのですが、フェイスリフトの技の頂点の手術は顔面神経を見ながら行うくらい危険を伴うと聞きました。

D)それはハムラ法といわれる手術です。

2010年くらいまでは、確かに最高のフェイスリフトといわれていたかもしれませんが、解剖学的見地から、顔面神経への浸襲が問題視されてきました。そこで、あえてこの手術法を選ばなくとも、もっと安全に短時間でできる手術法がいろいろ考案されてきたのです。

酒井形成外科で行なっている手術は、安全性を第一に考え、さらに理論的SMASや顔の皮膚が十分伸展されそれが長期間持続するように考えられています。

P)酒井形成外科でのフェイスリフト手術の手順とその後の状態を教えてください。

D)まず、手術は全身麻酔で行います。やはり静脈麻酔では安定しませんので、麻酔科専門医にお願いをしてしっかり意識を落としながら、安静を保つ全身麻酔を選択します。もちろん1日は入院をしますので、手術当日は痛みのコントロールは十分です。

丁寧にSMAS上を広く剥離しますので、時間がかかります。
SMASの縫縮(AMAS Plication)を行うと同時に、私はそこを筋膜またはGOATX膜(人工硬膜)で補強をします。顔の皮膚を裏面から糸で釣り上げていき、皮膚を丁寧に縫合します。形成外科的縫合術はとても特色のある技術ですので、本格的フェイスリフトは必ず形成外科専門医の資格のある医師にまかせましょう。

ほうれい線が薄くなり、マリオネットラインも改善します。また、ミッドチークラインという目の下から頬中央にできる線状の影も薄くなります。
さらに、皮膚の張り、や毛穴の目立ちも薄くなる傾向にあります。SMASから引き上げ、皮膚を十分挙上する本格的フェイスリフトは最善表情の若返りとともに皮膚の若返りも可能にします。

手術は全身麻酔ですので、次の日まで入院しています。入院中はお薬で処をするため、疼痛の緩和や精神安静を図れます。
次の日には、ドレーンを抜き、包帯を見栄え良く巻きなおします。術後、3日程度で包帯を外します。腫れは7日ほどで、かなり改善します。内出血色(青タン)はほとんど出現しませんが、小範囲でおこることがあり、これも7日ほどで安定します。

見えるところの抜糸は術後7日で行います。また、有毛部は術後10日で抜糸を完了します。術後1ヶ月も経てば、手術の痕跡もかなり曖昧になり、極めて自然な感じになります。

*この患者様は後日、当院で全身麻酔下でトータルフェイスリフトの手術をなさいました。 

そして、術後6ヶ月の検診時です。

【術後の様子】

D)お元気そうですね。
随分といきいきされた感じですね。

ヘヤースタイルも、ファッションも、お化粧法も・・・見違えるほどです。
いや、・・・失礼しました。

P)でも、ほんとに世の中が明るく感じるようになりました。
前回のフェイスリフトと違って、効果がしっかり出ていますもの。それに、耳たぶが丸くなって、ピアスがしやすくなりました。

ほら、傷跡もほとんど分からないくらいです。

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手術後、抜糸前の状態 
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手術後1年の傷跡の状態
先生、ありがとうございました。

D)それは良かった。
よろこんでいただいてなによりです。

至極のスキンケア (その2)

メディカルスキンケアには、クリニックに通って施術を受けることと、クリニックで薬を投薬してもらい、家で定期的に行うホームスキンケアがあります。

クリニックに行って、医師の管理下で治療を行うことはもっとも効果があります。しかし、毎日それを行う事は難しいですよね。

そこで、クリニックや病院で処方してもらった薬を利用し、肌のお手入れやスキンケアを自宅で行うことができるのです。その上で、時々クリニックで治療を行えば、相乗効果でとても良い結果が得られるはずです。

今回は最近人気が急上昇してきた、自宅で行う医療用スキンケアシステム、ZO SKINHEALTH のお話をしましょう。

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みなさん、ドクターオバジという名前をどこかで聞いたことがありませんか?

彼はアメリカのハリウッドセレブ御用達のスキンケア専門医です。ZOスキンヘルスとは、このスーパードクターのお名前 Dr. Zein Obagi の頭文字をとって名付けられました。

ちょっと知っておきたい、お薬の豆知識です。

日本での医薬品の販売に関しては薬事法でしっかり管理され、売り手は制限されています。

薬品を管理しているお役所は「厚生労働省(厚労省)」です。

お化粧品や石鹸、洗剤、あるいは食品に類するものは、その売り手はだれでも良く、また、販売場所も制限されていません。

しかし、副作用が懸念される医薬品に関しては、一部を除き医師が処方箋で管理することになっています。

ドラッグストアーで売られている「風邪薬」や「整腸剤」などはだれでも購入できますが、それは売り手が薬剤師だからです。しかし、抗生剤やステロイド剤など、医師が患者の症状や病状に合わせ、説明をした上で処方するものは、医師との対面(診察)が必要です。これらのお薬は第1種処方薬といわれています。

ZOスキンの種類の中には、この第1種薬剤が含まれているため、医師の診察、診断、処方が必要になるのです。

20年ほど前、私は、私の師匠の1人である当時皮膚科の大御所であった戸田医師にトレチノインとハイドロキノンによるシミ治療法を伝授してもらいました。この治療法は当時としても決して新しい治療法ではなく、1970年代に東京大学で行われていたレシピによるものでした。

この頃のレーザー機器はものすごく高価でとても一般のクリニックが保持できるものではなく、我々にとって効果のあるシミの治療はこのハイドキノン・トレチノイン療法以外ほぼ皆無でした。

こんな中で、トレチノイン・ハイドロキノン・ステロイド治療は驚くほどの効果を示したといわれています。

とはいえ、この治療法、場合によってはシミが取れるどころか、それが傷跡になるような大きな副作用が存在していので、かなり慎重に処方する必要があり、当時の私はビビりながらこれらのお薬を使っていたことを思い出します。

当時を振り返れば、冷凍されたトレチノインの試薬を乳鉢で砕き、微量天秤で重さを測りながら所定の基剤に混和させ0.1%の私製トレチノインを作成していました。ハイドロキノンも試薬を希釈し、5%と10%、20%のものを作成していました。当初は基剤が荒く、使い勝手がとても良いとはいえない代物でした。

施術した患者様からも、皮膚が真っ赤になる、皮膚がボロボロになる、かゆみや痛みがでる、といった、クレームばかりで、この薬を続ける方はわずかな方達だけでした。その、わずかな患者様の皮膚の変化は驚くものがあったため、かろうじて私はトレチノイン・ハイドロキノン・ステロイド療法を捨てずに入られました。

こんな、症例がありました。

当院でレーザー治療を行なっていた患者様があるときやけどをしてしまったのです。レーザーのパワーも照射の仕方も以前と同じだったのですが、おそらく、レーザーの機械自体の異常がでてしまたったためと考えられます。残念なことにその後、かなりの色素沈着をおこしてしまいました。

もしかすると、訴訟問題に発展するのではないかと、大きな危惧をいたきながら、ものは試しといっては何ですが、とにかく藁をも掴む思いで、トレチノイン・ハイドロキノン療法を試みたのです。もちろん、この患者様の努力もあって、数ヶ月後には色素沈着がかなり改善しました。私は胸をなでおろすとともにかなりの驚きを経験しました。

この患者様はその後もハイドロキノン単体療法、時間をかけてトレチノイン・ハイドロキノン療法と治療を続けたのです。すると、1年後には、20年前の皮膚(患者様がおしゃっていた表現です)に戻るほど、シミがなくなり、皮膚のハリツヤが戻ってきたのです。

さて、私はこの2年後にオバジニューダームに出会います。

オバジニューダームはオバジ医師をかかえる製薬会社がオバジ医師の名前を冠して、米国で発売されていたスキンケア薬品です。当時としては、決して派手ではなく、いかにも医師の調剤する医薬品感漂う中に、ちょっとしたオシャレ感のある容器が私たち日本の医師には新鮮に見えました。

これらは、セット販売で、洗顔料、化粧水、とともに2種類のハイドロキノンを含むクリーム製剤です。問題点はトレチノインが、推薦される他の製剤を使うか、または、自家調剤しなくてはならないことと、オバジニューダームセットがおもったより高額だったことです。

このシリーズではハイドロキノンも4%と低く、トレチノインを0.05%とすれば、かなり副作用がおさえられ、ステロイドも必要なくなったため安全性は高まりました。

価格が高価だったので、私はあえてセットでの販売を止め、1種類のハイドロキノン製剤(ミラミクス)、と私が調剤するナノトレチノイン0.05%だけで効果を試してみました。

これが、当時のオバジニューダームセットの価格の1/4の価格で、ほぼ同程度の効果を生んだのです。

その後、オバジ医師は自分の製薬会社を立ち上げます。

オバジ先生が前に所属していた製薬会社の商標登録があるため、オバジの名称は使用できず、彼の商品も「ZO」と名付けられました。

ZOシリーズになってからは、価格もかなり下げられ、また、薬品の使い勝手も格段と上がりました。

私は、基本的に、朝は私が調剤した活性化ビタミンCローションのみとし、夜就寝前に私の調剤したナノトレチノイン0.05%とZOのハイドロキノン(ミラキックス)の使用をさせています。

物足りないと感じた方には、朝、晩、別のタイプのハイドロキノン(ミラミン)を足して使用させています。 

ZO/ミラミックス

【ミラミックス】

ミラミン

【ミラミン】

サカイ・トレチノイン

【サカイ・トレチノイン】

ZOを使用した、酒井形成外科のトレチノイン・ハイドロキノン療法は18週間のプログラムです。お薬を毎日使うと肌の調子が厳しすぎるという方は、1日おき、または週に3〜4日の使用後3〜4日休薬させます。

18週間を経過した方は、トレチノインを休薬させます。場合によっては現在厚労省の薬事承認のあるディフェリンとミラミックスを使用するかまたはミラミンのみで経過を追います。

ディフェリン

【ディフェリン】

みなさん、酒井のトレチノインを使ったZOスキンケア、いかがでしょうか?
私は多くの方に驚きのスキンケア体験をしていただきたいと願っています。

ZOスキン中

【ZOスキン中】

ZOスキン後1ヶ月

【ZOスキン後1ヶ月】

至極のスキンケア (その1)

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スキンケアには大きく分けて、

1)肌の張りの改善(こじわ、ちりめんじわ、たるみの改善)、と
2)肌の色の改善(しみ、色素沈着、くすみ、の改善)

があります。

今回は 1)肌の張りの改善(スキンタイトニングとも呼ばれています。)に関する至極のスキンケアのお話をしましょう。

理想的な肌質といえば、赤ちゃんのほほやおしりの皮膚感を思いつきませんか?

でも、だれもが赤ちゃんだった時代があるはずですから、みんな、理想的な肌質だった時代がそれぞれあるはずですよね。

しかし、女性は25歳を過ぎた頃から、男性でも35歳を過ぎた頃から、ガサガサ、ブツブツ、シワシワ、などと表現される肌感覚に陥ってくるのです。もちろん、中には人も羨む、ツルツル、モッチリ、色白な肌の持ち主もいます。

さて、どんな方でも40歳を超えれば、さすがに、肌は衰えてくるのを実感するでしょう。

生理学的にその原因はわかっています。皮膚のコラーゲンやエラスチンの減少により皮膚が薄くなってくるためです。また、皮膚は加齢とともに弾力を失い硬くなってきます。角質は早期に剥がれにくくなり、あたかも錆びのように皮膚の上層部に溜まっていくのです。

多くの女性は、基礎化粧を念入りに行っていますよね。最近では男性の方も基礎化粧に大変興味があるようです。しかし、あなたの先輩をみてください。50歳の先輩、60歳の先輩。
このくらいの年齢の方は、女性であれば、若い頃から念入りに基礎化粧を行なっているはずなのに、肌の衰えは隠せていません。
30年前の基礎化粧品も現在の化粧品も基本的な成分はほとんど変わっていないわけですから、基礎化粧はいくら頑張っても、それほど大きな変化は得られないでしょうね。

では、エステはどうか。
日本は薬事法という法律があり、医師でない限り、薬理効果の強いお薬は使用できません。効果があれば、大抵は副作用があるからです。
エステの施術者は、大抵が医師でないことが多いいわけですから、使用されているお薬も軽いものしか使えないはずです。
だから、肌の汚れを落としたり、肌の保湿をすることはできても、肌のコラーゲンやエラスチンを増加させることはできたりしないのです。

20年くらい前でしょうか、医師がエステを行ってみてはどうか、みたいなコンセプトが出てきました。これが美容皮膚科という診療科なのです。
施術を行うのが、医師または看護師という国家資格の保有者が診療行為を行うため、合法的に処方薬剤や高度医療機器で、医療治療というスキンケアができるようになりました。
それとともに、肌質の改善を促す、薬や医療機器が研究開発されるようになってきたのです。

美容皮膚科学の走りは皮膚にやけどをおこさせながら、皮膚を活性化する劇薬から始まりました。現在のレーザーや高周波電気治療、超音波治療も真皮に軽い火傷という刺激を与え、皮膚が治癒し、再生する過程で皮膚の改善を促す理論です。
生きている皮膚は、怪我をすれば、それを治そうとして、あらたなコラーゲンやエラスチン生成します。また、場合によっては皮膚の細胞自体を増やす可能性もあります。
とても素晴らしいお話ですが、残念ながら現時点では、60歳の肌を20歳に戻すようなことにはなっていません。

私は美容クリニックを運営して25年になります。スキンケアに関しても、実際、多くの機器を経験してきました。効果が全く無かった、という経験はありませんが、「思ったほど・・・」というのが事実です。
なにしろ、美容医療に使う機械はとても高価で、維持費もばかになりません。さらに、人件費や宣伝費を考えると、どうしても治療費は「高価」なってしまいます。
つまりレーザーや高周波電気治療器あるいは超音波治療器を利用したスキンケアはその治療費がとても高いため、それに見合う効果が少ないように感じるのです。

さて、今回のテーマである「至極のスキンケア(スキンタイトニング編)」として、高価な機械を使用した美容皮膚科治療に匹敵する効果が得られるにもかかわらず、治療費がかなり安い!というものをご紹介します。
治療費が安ければ(リーズナブル)、治療を継続するのが容易になります。
よほどの富裕層でなければ110万円〜20万円もするスキンケアを続けるのは難しいと思いませんか?
スキンケアは続けることに意味がありますので、治療費の軽減は大きなプラスポイントになるはずです。

さて、私が推薦する至極のスキンケアとは、マイクロニードリングとTCAピーリングのコラボレージョンです。
では、このスキンケアとはいったいどんなものなのでしょう?

〔マイクロニードリングとTCAピーリング〕

マイクロニードリングとは極細の針を1020本束ねたハンドピースチップを高速で振動させる(毎秒2000回程度)機械にセットし、短時間に皮膚の浅い層に多数の微小な穴を穿つものです。この微小な皮膚損傷は線維芽細胞を活性化し、コラーゲン、エラスチンを再生させます。これにより、毛穴の目立ち、ちりめんジワ、ニキビ跡が改善します。

真皮層への小さな外傷的刺激という意味では、高周波電気治療、フラクショナルレーザー治療とほぼ同程度と考えられます。続いて、この施術後すぐにPRX-T33というトリクロル酢酸(TCA)を含むピーリング剤を作用させます。

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PRX-T33:トリクロル酢酸33%、過酸化水素5%、コウジ酸5%、を配合しています。

PRX-T33は皮膚の腐食性が高いTCAに加え、それを中和する過酸化水素添加されています。低濃度の過酸化水素は素早く皮膚に浸透し、TCA を真皮の位置で中和させます。
これにより、皮膚のコラーゲンやエラスチン量は増加し、余分な皮膚角質は減少します。
加齢変化で薄くなった皮膚は厚さを戻し、厚く固まった角質を薄はうすくなりしなやかさを取り戻します。つまり、皮膚の若返り効果(リジュビネーション)が望めるわけです。

この施術では、患者様は痛みや不快感を感じることは殆どありません。施術時間は表面麻酔を含め2時間程度です。
また、1〜2ヶ月に1回程度は続けて施術可能です。治療費用も30,000円(33,000円消費税込み)と比較的リーズナブルです。ダウンタイムは1日程度と極めて短いのも特色です。

〔マイクロニードリングとTCAピーリングの実際〕

まず、顔全体に麻酔クリーム(エムラクリーム・キシロカインクリーム)を塗布し3060分放置します。麻酔作用は真皮に及びますので、多少の刺激では痛み感じることはありません。

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麻酔が効いたところで、高速で動くマイクロニードル(ダーマペン)を作用させます。皮膚表面にある程度、血が滲む程度が良い効果を生みます。血が滲むということは、針先が真皮に到達したことを意味します。

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顔の皮膚全体の施術

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鼻部皮膚への施術

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下眼瞼近くへの施術

顔の皮膚全体でも15分程度施術は終了します。
続いて、TCA(トリクコロール酸)を含有する「PRXT33」を使用してピーリングを行います。

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まず、ピーリングし施術部位の範囲を小さく分割し、小範囲でPRX-T33を滴下します。
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皮膚に付着させた少量のPRX-T33を皮膚表面に伸ばすようにマサージしていきます。
痛みがでてきたら、薬剤を拭き取ります。薬剤をふき取ると、痛みは即座に消失します。この動作を続けます。
マッサージピールは15分から30分程度で終了します。

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施術後3日の状態です。皮膚にハリがでて表面が滑らかに感じます。小じわやニキビ跡、毛穴の目立ちが減少します。
施術後23日は多少の赤み、かゆみ、ヒリヒリ感が残りますが、思ったよりダウンタイムは短いはずです。
施術当日から軽い洗顔やシャワー浴は可能です。施術後12時間でメイクも可能になります。

〔マイクロニドリング&マッサージピールの合併症とリスク〕

  • 施術部位の赤み
  • 施術部位の皮むけ
  • 色素沈着
  • 肌が弱い方、アトピー性皮膚炎、皮膚の感染症、皮膚のアレルギー性疾患、などでは施術は控えます。

そのほか、日光角化症、皮膚癌、血友病、の方も施術は控えます。

〔マイクロニドリング&マッサージピールの治療費〕

マイクロニードリング(ダーマペン 使用):顔全体 2万円(22,000円 消費税込み)
マッサージピール:顔全体 18,000円(19,800円 消費税込み)
マイクロニードリング&マッサージピール:顔全体 3万円(33,000円 消費税込み)

「ハム目」とは、重瞼線の上下で、いわゆる「プックリ」してしまったまぶたの事だろうと思います。食べる直前の生ハムのペラペラ感・・ではないはずですよね。

今回は、他院で行なった切開重瞼の傷跡が目立つ事と、二重が「ハム目」になったのを修正したいという希望の患者様の、カウンセリングから手術までを紹介いたします。(その2

「ハム目」とは、重瞼幅が比較的広く、厚ぼったい二重のことを指すと考えられます。その理由は患者様の眼瞼の皮膚がもともと厚いことや、重瞼幅が広すぎること、癒着が強く、リンパ流が悪いことなどが考えられます。

では、手術の実際と経過を説明しましょう。

Doctor):まず、もったりしたいわゆる『ハム目』を観察してみます。

重瞼幅が広く二重手術の傷跡が汚く癒着しています。目を閉じても、重瞼線は傷跡としてめだっているものです。

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D): では、さっそく手術法をデザインしてみましょう。

デザインを確認し終わったら、局所麻酔を注射します。注射針は34Gという直径0.5mm程度の極細針を使用します。ゆっくり麻酔薬を浸潤させると、痛みはかなり抑えられます。

【手術の説明】

23分待機し、デザインの上にメスを入れていきます。
最初に、現在の重瞼線(傷跡)を含め、睫毛側の皮膚を少し切除します。あまり切除しすぎると皮膚が不足します。

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続いて、睫毛側切開線の皮下を剥離し、少量の眼輪筋を切除します。また、眉毛側の切開線から上方に皮下を剥離し、皮膚が進展しやすいようにします。

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新しい重瞼線は術前の重瞼線より下方(睫毛側)に移動するように、縫合線を瞼板に固定します。あとは、丁寧に傷を縫合し、傷跡を目立たなくさせるようにします。

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最後に、瞼板から重瞼線を通し眉毛に細い糸を通糸します。これは、重瞼線を下げるにあたり、後戻りを防ぎながら、重瞼線を固定するためのものです。とても有効な手技です。

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D): ご苦労様でした。手術は終了しました。重瞼幅はなんとか縮小したようです。おそらく、眼瞼のプックリ感も改善すると思いますよ。

Patient): 先生、ありがとうございました。意外に、痛くないんですね。驚きました。思ったよりも腫れも少ないです。

D): これから1時間ほど冷やします。少し休んでください。家に帰ったら、今日は目の上を冷やしましょう。明日からは、冷やす必要はありません。また、明日、状態を拝見させていただきますね。

この患者様の眼瞼は6ヶ月程度でほぼ落ち着き、重瞼幅の縮小と、もったりした眼瞼の解消は、当初の予定より大きな効果を生みました。

〔コメント〕

切開法の重瞼術後、重瞼幅が大きすぎた場合修正がとても困難だと言われています。医師の中には、広すぎる重瞼幅を狭くすることは不可能とまでいう方もいるくらいです。

重瞼幅が広い症例の中に「ハム目」と呼ばれる現象があります。重瞼線から下がプックリ腫れている状態を指すようです。これは、切開手術の傷跡がきたなかったりして、リンパ液の滞りや筋肉や皮膚の厚さが原因のようです。

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手術の経過 : 他院で行った切開重瞼の幅と膨らみの修正
合併症とリスク : 瘢痕、重瞼線の消失、予定外重瞼線、色素沈着、感染、血腫
手術費用: (モニター価格) 両側 40万円

ハム目といえども、手術法の工夫で修正できる症例も数多くあると思います。ポイントは重瞼線上の皮下剥離と重瞼線下の瞼板上の眼輪筋の適度な切除です。大切なことは手術中の全ての手技は超絶丁寧に行わなければならないことです。

【症例 1】

切開重瞼修正1.png

手術の経過 : 他院で行った切開重瞼の幅と膨らみの修正
合併症とリスク : 瘢痕、重瞼線の消失、予定外重瞼線、色素沈着、感染、血腫
手術費用: (モニター価格) 両側 40万円

【症例 2】

切開重瞼修正2.png

手術の経過 : 他院で行った切開重瞼の幅と膨らみの修正
合併症とリスク : 瘢痕、重瞼線の消失、予定外重瞼線、色素沈着、感染、血腫
手術費用: (モニター価格) 両側 40万円

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「ハム目」とは、重瞼線の上下で、いわゆる「プックリ」してしまったまぶたの事だろうと思います。食べる直前の生ハムのペラペラ感・・ではないはずですよね。

今回は、他院で行なった切開重瞼の傷跡が目立つ事と、二重が「ハム目」になったのを修正したいという希望の患者様の、カウンセリングから手術までを紹介いたします。(その1)

Patient: 2年ほど前、他のクリニックで切開法の二重手術を受けました。

もともと、私は完全な一重まぶたで、やや重い感じだったことは確かです。手術後はかなり腫れました。

5日に抜糸をおこないました。その3日後に傷から出血があったので、あわててそのクリニックに行きましたが、大丈夫!ということで、そのまま帰されました。

しばらくは腫れると言われていたので様子を見ていましたが、3ヶ月経っても二重の幅が広く、もったりした感じが治りません。

再度、手術を担当した先生に相談に行きましたが、「まだ、腫れているだけ、もうすぐおちつくよ」と素っ気ない返事です。なんか、あまり来てはいけない感じがして、その後はその先生に診てもらいたくなくなり、そのままほっておくことになりました。

1年が経過し、2年が経ち、まったく幅がせまくならないし、もったりした「ハム目」も気に入りません。

これは修正可能なのでしょうか?

Doctor: まず、目を拝見してみましょう。

目を閉じてください。  ・・・・。
では、開けてください。 ・・・・。
上の方を見てください。 ・・・・。

D: 手術後2年経過していますから、傷跡は概ね落ち着いているはずです。あなたの重瞼線の傷跡も落ち着いていますが、やや幅が広く乱れがありますね。担当医の縫合技術は形成外科的に見ると緻密さに欠けるように感じます。

D: もしかすると、担当医に幅広の平行型の重瞼を希望なさいましたか?

P: いいえ、日本人ぽいナチュラルなふたえを希望しました。

D: なるほど、現在の重瞼幅は7mmですので、本来であれば日本人の平均的な重瞼幅にはなっていますね。しかし、あなたの上まぶたの皮膚が厚い事や、ある程度しっかりした蒙古襞がありますので、単に平均的な幅で切開を行えば重瞼線の傷跡の上下で皮膚が弛みを残したり、皮膚そのものの厚さが強調され、もったりした「ハム目」になるのでしょう。

そうなれば、予定より重瞼幅が幅広に見えたり、その結果、目頭側では蒙古襞の上に重瞼線ができたりするのです。

P: あの、蒙古襞って、これですよね。・・・・。
   今は、この襞の上に二重の線ができているのが不自然に見えるのでしょうか?

D: 蒙古襞は蒙古系民族(モンゴリアン)(東アジアに多い民族だが、現在は世界中に点在する。日本人、韓国人、などに多い。)の特徴でもあり、目頭に襞ができ「涙丘」と言われる目頭の形を隠している形態です。蒙古襞がある方は、この裏側から重瞼線が発生するため、「末広型」の重瞼線が現れます。蒙古襞がない白人系の方(コケジアン)(ヨーロッパ系民族、インド人や中東の民族も含む。)は蒙古襞がないため重瞼線は目頭の涙丘の上から始まり、「平行型」の重瞼線になるのです。どちらかというと、末広型はあっさりした幅が狭い重瞼の形となり、平行型は幅が広くしっかりした重瞼の形となります。

日本人で、蒙古襞がある場合は、末広型がすっきりした感じに見えます。

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(P: では、目頭の部分を修正できれば、「ハム目」感はなくなるのでしょうか?

D):そう簡単ではありません。

例えてみましょう。毛布を畳むのと、布団を畳むのを例に取ります。毛布の畳目はあっさり、薄いのに比べ、布団の畳目はふっくらしているでしょ。

つまり、薄い皮膚のかたに重瞼を作ると、あっさりした重瞼感が出るのに対し、厚い皮膚の方に重瞼を作るとプックリした重瞼感になってしまいます。

上まぶたの皮膚も複雑です。眉毛に近いところは皮膚がかなり厚くなっていますが、睫毛の近くでは、これが極めて薄くなっています。自然な二重まぶたの方では二重の線が、瞼の薄い範囲に形成されることが多いのです。あなたのまぶたは睫毛の近くまで厚さがあったと考えられます。ですから、重瞼幅を5mmくらいに設定し、皮膚の切除は最低としながら、余剰皮膚があるなら、眉下での皮膚切除が望ましかったと診断します。しかし、今更、それを言っても仕方がありません。

(D):そこで、修正案ですが、現在の重瞼幅をなるべく狭くなるように修正します。まず、傷跡はなるべく狭い範囲で切除しなくてはなりません。皮膚は薄くできませんので、睫毛側の皮下組織である眼輪筋を切除しましょう。少しでも皮膚を薄くするためには、もし、余剰皮膚が生じた場合、眉下で皮膚を切除し、皮膚を引き伸ばすと良いと思います。もちろん

皮膚に余裕がなければあえてこの処置はしません。

P: やはり、傷跡を切り取らなくてはならないのですね?

D: そのとうりです。あなたの現在の傷跡は凹んでていて目立っていますよね。目を閉じた時、いかにも手術しました感があると感じませんか?

P: はい、そのことに関しても、気になっていました。もっと、自然な感じを希望しています。だって、天然のふたえの方は、目を閉じた時にしわのように見えますもの・・。

D: 実は、まぶたの皮膚は人体の中で最も薄い箇所なのです。ですから、丁寧に縫合すると、ほとんど傷跡が目立たなくなるものなのです。また、傷跡が汚く癒着が多いとリンパ流の流れが悪くなり、傷から下、この場合、二重の睫毛側が膨らんでプックリした感じになることもあります。

P: では、傷跡を切り取り、きれいに縫い直すだけでも、自然な感じに近づけることができるのですか?

D: そのとうりです。それが、「ハム目」の修正の第一歩なのです。その上で、皮膚のバランスを考え、なるべく蒙古襞の内側に重瞼線が集約するようにデザインをします。まぶたの皮膚が下に移動しやすくなるよう、重瞼線の上側の皮下を剥離(皮膚の下を眼輪筋から剥がす)します。常に、手術は時間をかけ丁寧に進めていくものなのです。

続く・・・

治したはずの顎が縮む?? (後編)

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顎の先を「頤(オトガイ)」と言います。頤が後退して輪郭が貧弱に見える方がいらっしゃいます。下顎骨の顎先の部位が引っ込んでいたり、小さかったりするのが原因です。

美容外科の治療法として最も多いのは、頤用シリコーンプロテーゼの移植です。口腔外科では、下顎骨の水平骨切りと、切断した骨片の前方移動と固定を行う医師もいます。

私たちは、厚労省で認可された人工骨であるバイオペクスを使い、これを3Dプリンタで各患者さまにカスタマイズして移植しています。

バイオペクスの最大の利点は、骨置換といって少しずつ、自分の骨に置き換わる性質です。つまり、人工骨を移植すると、一部を除いてそれがご自身の骨になるわけです。人工骨移植は、頤を自分の骨で増加できるのですから、理想的な手術だと考えています。問題点は、人工骨のカスタマイズに少々面倒な工夫が必要な事くらいでしょう。

さて、今回は、私の診察室で実際にあった症例をご紹介します。

カウンセリングと診断(その1)、そして、手術から1年後の一連の治療を解説してみました。(その2

CTスキャンでの診察後、この患者さまは、人工骨での再建手術を希望されました。そこでCTデータから3Dプリンタでクレイモデルを作成しました。
患者さまと移植すべき人工骨のカスタマイズのためのサイジングを行います。3Dプリンタとクレイモデル(粘土モデル)を使って実際の人工骨を再現してみるのです。

Patient:これが、私の「あご」ですか?結構リアルですね。骨の凹みも思ったよりひどい印象です。

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Doctor: これはあなたの実物大の骨を模倣しています。つまり、あなたの顎を外に出したものと考えて良いのです。
この凹みはプロテーゼのいたずらですね。プロテーゼもやや大きく長い感じです。
おそらく、プロテーゼは最初に入れたところから、しばらくして、上にずれたようですね。顎の先より上の方に窪みが続いていますから・・。

プロテーゼはかなり骨を侵食していますね。でも、骨髄のダメージは無さそうです。

P):このままだと、顎の骨が無くなってしまいそうです!
プロテーゼを入れて顎がしっかりしてきた頃から見ると、今の顎先がかなり小さくなってきた理由が「これ」だったんですね!

ちょっとショックです・・・。

D):さて、新しく人工骨(バイオペックス)で、再度あなたの顎先(頤部)を再建するとしたら、こんな感じになると思います。
これは、3Dプリンターにシリコーン系粘土で予想図を作成したものです。

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もしよければ、これを見本にして、バイッペクスで実物を作成しましょう。

P: わかりました。よろしくお願いします。

手術の依頼が決定しましたので、さっそく人工骨のカスタマイズを行いました。

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人工骨をカスタマイズした後、これを再滅菌して手術の日を待ちます。

手術は静脈麻酔下で患者さまの意識を落として、口腔内の切開線から移植を行います。手術時間は1時間程度です。

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あらかじめ3Dプリンタでカスタマイズした人工骨はぴったり収まります。

[コメント(後編)]

オトガイ形成(顎先を出す美容外科手術)は長らくシリコーンプロテーゼが利用されてきました。この手術はとても良い結果がでますが、後日、頤骨の変形が問題でした。CTスキャンデータを観察すると、多くの症例で骨の吸収と陥凹性変形が認められます。

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ある程度の面積や体積(厚さ)があるシリコーンプロテーゼを骨の上に移植すると、その上にある筋肉の動きがシリコーンプロテーゼの下の骨を萎縮させると考えられます。この事が、かつては美容外科といえばシリコーンの移植といわれた時代もあったのですが、これを行わなくなってきた理由だと私は考えています。

では、骨組織を増やす良い方法はなくなったのでしょうか?

バイオペクスは2000年に厚労省の認可を受けた人工骨材料です。

比較的自在に形を整える事ができます。移植された人工骨は数年で自家骨に変化することが認められています。つまり、移植された人工骨は、いずれ自分の骨に変わっていくことがわかっています。私はCTデータを数年にわたり観察した結果、人工骨が自然な形で自分の骨に馴染む状態を確認しています。

現在酒井形成外科では、頤形成だけでなく、前額形成(おでこを出す美容外科手術)やエラ骨削りの修正等にもバイオペクスを利用して再建を試みています。

治したはずの顎が縮む?? (前編)

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顎の先を「頤(オトガイ)」といいます。頤が後退して輪郭が貧弱に見える方がいらっしゃいます。下顎骨の顎先の部位が引っ込んでいたり、小さかったりするのが原因です。

美容外科の治療法として最も多いのは、頤用シリコーンプロテーゼの移植です。口腔外科では、下顎骨の水平骨切りと、切断した骨片の前方移動と固定を行う医師もいます。

私たちは、厚労省で認可された人工骨であるバイオペクスを使い、これを3Dプリンタで各患者さまにカスタマイズして移植しています。
バイオペクスの最大の利点は、骨置換といって少しずつ、自分の骨に置き換わる性質です。つまり、人工骨を移植すると、一部を除いてそれがご自分の骨になるわけです。
人工骨移植は、頤を自分の骨で増加できるのですから、理想的な手術だと考えています。問題点は、人工骨のカスタマイズに少々面倒な工夫が必要な事くらいでしょう。

さて、今回は、私の診察室で実際にあった症例をご紹介します。

カウンセリングと診断(前編)、そして、手術から1年後の一連の治療を解説してみました。(後編)

Patient: 顎が小さいというか、後ろに凹んでいるのがコンプレクスで、3年ほど前に、他の美容外科で顎にシリコーンプロテーゼを入れてもらいました。腫れが引くととてもいい感じになりました。
しかし、1ヶ月くらい経った頃でしょうか、顎先が少し上に移動した感じを受けました。担当医からは、「良くなったね」といわれたので、こんなものかなと思っていました。
12年くらい前からでしょうか、顎がだんだんへこんできたように感じていました。同時に、顎の先端がやはり上へ移動していると感じたのです。
そして、現在は、あごは殆ど前と同じ位置に戻ってしまったようです。

Doctor: 今、痛みはありませんか?

P: ありません。

D):感覚障害はありませんか?

P: 今はありません。3年前、手術をした直後、下唇と顎にかけて、違和感としびれ感がでました。3ヶ月くらいしたら、徐々に治ってきました。

D):すみません、顎の先を触ってみます・・・。
水などは溜まっていないようですし、腫れもありません。プロテーゼも固定されているようですが、随分小さい感じがしますね。

P: そうなんです。最初の頃は、触っても、ずっと大きかったと思います。

D: では、まず、CT検査を行ってみましょう。あなたの現在の状態がはっきりわかると思います。

*** 2週間後 ***

D: CTスキャンの結果がこちらです。

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P: ・・・・・。

D: 下顎の先、これが頤部ですね。ここに、凹みがあるでしょ。これは、プロテーゼが入っているところです。
なんで凹んでいるかというと、プロテーゼが骨を押し続けた結果、骨が負けて、プロテーゼが骨に埋まり込んだと考えます。だから、昨年あたりからプロテーゼが小さくなったと感じたわけですね。

P: これって、今後問題が起きますすでしょうか?

D: まだ、すぐに問題が起きるというわけではありません。しかし、ほっておくと、プロテーゼが骨髄まで侵食し、骨が脆くなってしまう危険性があります。
また、骨髄にプロテーゼが侵食すると、これを除去するのが少し難しくなってきます。

P: では、この状態は治療法があるのですね?

D):もちろんです。今は、ハイドロキシアパタイトという人工骨があります。薬事認可を取っている、医療材料です。ハイドロキシアパタイトノペースト状材があり、バイオペクスと呼ばれています。これを使って、あなたの顎の骨の修復が可能です。

P):人工骨!これは危険性や問題点はないのですか?

D: 日本の薬事認可が取られていますから、危険性や副作用は殆どありません。研究によると、ハイドロキシアパタイトは骨に移植されると、少しずつご自分の骨に変わるといわれています。これを骨置換というそうです。
ただし、扱いや形の形成にはコツがいります。
まず、このCTデータから、3Dプリンタを使ってあなたの顎の骨の3Dモデルを作りましょう。これを土台に、あなたに移植する人工骨をカスタマイズします。
凹んだ、下顎骨の修正だけでなく、あなたの理想に近い顎の形態を作成することができます。そして、移植された人工骨はかなりの量がご自分の骨に置き換わるわけです。

(後編につづく)

隆鼻術 (後編)

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隆鼻術は鼻根部から鼻背部、鼻尖部にいたる鼻筋を整えながらこれを高めていく、古来から存続する美容外科手術です。近年、隆鼻術に関して、移植材料の多様性が出てきました。

さて、今回は、安全性や術後の感触など、どの材料、あるいはどのような手術法が最も推奨できるのかという質問です。(後編)

Q) 隆鼻を希望しています。鼻全体が低く、特に、目と目の間の高さがほとんどありません。希望は、私の顔に合わせて自然な鼻筋です。外国の方の様な鼻筋の高さは望んでいません。

最近、相談に行ったクリニックでは、肋軟骨移植を勧めるところと、シリコーンプロテーゼを勧めるところがありました。プロテーゼはいわゆるI 型が良いそうです。また、あるクリニックでは、鼻の付け根は短めのI 型プロテーゼ、鼻先と鼻柱は耳介軟骨の移植がお勧めと言われました。中には、ゴアテックス線維の移植を勧めている所もありました。

ところで、私の友人は韓国で肋軟骨移植による隆鼻術を受けたのですが、鼻全体がカチカチに硬くて不自然と嘆いていました。肋軟骨移植での隆鼻術は一見シュッとして綺麗に見えますが、やはり硬くなるのでしょうか?

酒井形成外科でのご意見を伺いたいと思います。

A) 隆鼻を行う場合、鼻根部(鼻の目と目の間)はもとより、鼻背部も高く修正し、鼻尖部(鼻の頭)ではやや鼻先を尖らせる事が多いと思います。最近では隆鼻のために移植される物質も多様性がでてきました。シリコーンプロテーゼ、肋軟骨、ゴアテックス等が多く利用されています。

この中でも私はシリコーンプロテーゼがもっとも安全性に長けていると考えています。しかも現在のシリコーンプロテーゼはかなり柔らかく組織になじみ易くなっていて、移植後の問題点は激減しています。プロテーゼとともに鼻尖部に自家組織である耳介軟骨や筋膜あるいは真皮を使用すれば鼻尖部の形態を整えた上で安全性も確保できます。プロテーゼがもっとも優れているところは、もし、これを除去する場合、きわめて簡単に切除できることです。

移植材料に関しては研究がなされ新しいものが開発され続けています。いずれは、ゴアテックスやシリコーン、肋軟骨にかわる新しい医療材料が開発されるはずです。その時、新しい素材に変更する場合でも、シリコーンプロテーゼであれば、たやすく交換ができるでしょう。

ゴアテックスや肋軟骨は除去が困難な上に、肋軟骨では、移植後の変形も問題視されています。さらに、これらの素材は鼻尖部や鼻柱の異常な硬さも問題です。

鼻のシリコーンプロテーゼといえばL型仕様とI型仕様があります。近年I型を選択する医師が多いと思いますが、実はそれぞれ欠点と利点があります。L型は鼻根部を骨膜下に固定したうえで鼻中隔部にも固定できるため、プロテーゼが曲がることなく安定して固定されます。しかし、鼻尖部の皮膚に負荷がかかり易く、場合によっては皮膚の破裂やプロテーゼの脱出の合併症を招きます。I型は鼻根部だけで固定されるためプロテーゼが曲がり易く(プロテーゼの変位)、また、短いプロテーゼであれば、鼻尖部は軟骨の移植等でおぎなわねばなりません。もし、長いI型プロテーゼを使用すれば、鼻尖部はL型と全く同じになり、鼻尖部皮膚へ影響を与えてしまいます。したがって、I型プロテーゼによる隆鼻術では、短いプロテーゼを選択し、鼻根部ではプロテーゼで隆鼻を行うものの、鼻尖部は耳介軟骨の移植等で形成を余儀なくされます。この場合、プロテーゼを除去する場合は一度鼻尖部を大きく広げる必要があり、修正は面倒になります。

そこで、私は、とても柔らかいL型シリコーンと耳介軟骨や真皮を利用したハイブリッド手術を提言しています。これは、鼻根部は適度な高さのシリコーンプロテーゼ、鼻尖部は極めて薄くしたシリコーンプロテーゼに耳介軟骨と真皮をのせた状態、鼻中隔部や鼻柱部は極めて細くしたシリコーンプロテーゼに軟骨や真皮を巻きつけてシリコーンが鼻尖部皮膚を障害することを防ぎます。このハイブリッド手術では、鼻腔内の鼻柱部を少量切開するだけで簡単にプロテーゼを除去できるのが最大の特徴になります。また、鼻尖部はほぼ、耳介軟骨と真皮で形成されるため、軟骨単独移植よりとても柔らかく自然な感じが表現できるのも長所ということができるでしょう。

そして、簡単にプロテーゼが除去できることは、将来の新しい隆鼻術への変更の容易さにもつながります。

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隆鼻症例:隆鼻と鼻尖形成を希望された患者様です。シリコーンプロテーゼと耳介軟骨、真皮移植を伴うコンポジットグラフトで形成しました。

手術費用(モニター価格)50万円

合併症、リスク:感染、皮膚の血行障害、皮膚潰瘍、プロテーゼの位置異常、血腫、色素沈着、等

[コメント(後編)]

隆鼻で使用する材料の選択

1)肋軟骨移植

日本の形成外科では、鼻のみならず、耳介や顔面の一部の再建に肋軟骨を多用してきました。その結果、肋軟骨が数年で変形してくることは形成外科専門医であればよく知っていることなのです。ですから、隆鼻や鼻尖形成で、肋軟骨を使いたがらない専門医は多いはずです。また、肋軟骨移植後の変形修正には少なからず難渋することが多く、安易に肋軟骨を移植するのは問題があると考えます。肋軟骨移植での隆鼻・鼻尖形成は術後早期では、実に綺麗に仕上がります。しかし、本来の柔らかさが無く、硬い感触の鼻になり、これをいやがる患者様も多く見受けられます。

2)ゴアテックス

ゴアテックスは厚労省で認可された医療材料で、筋膜、腹膜、脳硬膜、などの人体の膜組織の代用としてひろく応用されています。組織親和性がよく安全性も高いと言われています。

隆鼻にも応用されていますが、一つだけ問題点があります。それは、除去が困難だということです。もし、二度と鼻の形を変えないというなら、ゴアテックスも良い材料になるでしょう。しかし、ゴアテックス移植後、修正を希望する場合は、かなりの問題を提起します。隆鼻術はまだ、発展途上といえますので、今後、手術法や材料にも大きな変化が出てくると思います。その時、ゴアテックスが除去できない、あるいは、除去する際大きな変形を伴うとしたら、これは問題になりそうです。

3)耳介軟骨

両側の耳介軟骨をうまく採取しても、その絶対量が不足しがちですので、きれいな隆鼻と鼻尖形成を完成させるには無理がありそうです。

4)人工骨

ハイドロキシアパタイトの顆粒状材料です。骨性組織である鼻根部の隆鼻にはきわめて良い結果をもたらします。ハイドロキシアパタイトの顆粒はいずれ自家骨になりますので、安全性が高いといえます。しかし、鼻尖部や鼻柱、さらに鼻背部の下半分には移植が困難なため、耳介軟骨の移植とともにデザインをしなくてはなりません。万が一、修正の場合は、移植人工骨を削り取ることは可能です。

5)シリコーンプロテーゼ

初期のものは人体の鼻背軟骨の硬さを模倣したため、硬すぎてしまいました。現在のものはかなり柔らかくなり、皮膚への刺激も激減しました。鼻根部では鼻骨骨膜下に固定し、L型では、先端部を鼻中隔部に固定できます。(I型では鼻中隔部に固定できません)

また、L型の鼻尖部や鼻柱部に耳介軟骨や真皮を接着して移植すると、簡単に直軟骨による鼻尖形成や鼻柱形成、あるいは鼻中隔延長術が可能です。
さらに、必要に応じ、鼻腔内の少量の切開で比較的簡単にプロテーゼを除去できます。このことは、将来、新しい材料との交換が簡単であることを示唆します。

L型とI型のシリコーンプロテーゼの比較

I型シリコーンプロテーゼ

鼻根部から鼻背部の上部へ移植するプロテーゼです。鼻骨の骨膜下のみで固定されるため、プロテーゼの下方移動や左右のブレ移動がおこりやすい事が欠点です。また、移植は簡単でも、除去の際、プロテーゼが見つかりにくいことも欠点となるでしょう。しかし、鼻尖部にはプロテーゼが届かないため、鼻尖部皮膚の菲薄化が起こりにくく破綻も少ないのが利点です。

fig1.pngI型プロテーゼは鼻骨の骨膜下に固定されています。

fig2.png

骨膜がプロテーゼから浮いていたりすると、I型プロテーゼは容易に左右に変位してしまいます。
プロテーゼの変位では、鼻が曲がって見えたり、鼻尖部が変形したり、場合によってはL型と同様に鼻尖部皮膚の崩壊を招くことがあります。

2)L型シリコーンプロテーゼ(先端を薄くした場合)

L型プロテーゼをインプラントする場合は、鼻根部では鼻骨の骨膜下に固定し、鼻尖部では鼻中隔にも固定します。鼻尖部にボリュームを残せば、鼻尖部を尖らせるようにできます。もし、鼻尖部でのシリコーンのボリュームを少なくすれば、鼻尖部はほとんど変化することはありませんし、鼻尖部皮膚の影響を与えることも少ないと考えます。

fig3.png3) L型シリコーンプロテーゼ(先端で鼻尖を作る場合)

通常L型プロテーゼは鼻尖部が尖るように厚さがあります。これをこのまま鼻に移植すると鼻尖部は尖り、綺麗に見えますが、後日、鼻尖部の皮膚を菲薄化させ、最終的には鼻尖部を破綻させることがあります。

fig4.png5) L型プロテーゼを利用したハイブリッド仕様
(プロテーゼと耳介軟骨、真皮を利用したコンポジットによる隆鼻)

柔らかいL型シリコーンプロテーゼの鼻尖部に、ご自分の自家組織である耳介軟骨と真皮を接着しコンポジット(複合体)を作成します。これをシンプルに鼻筋に移植する手術は極めて単純です。コンポジットの作成は人体外で行われますので、手術中の不快感はとても少ないのです。コンポジットの作成には職人技が必要とはいえ、移植はシンプルですので手術時間も短くて済みます。

また、シリコーンプロテーゼは簡単に除去できますので、将来の新素材への交換もたやすく行うことができます。

fig5.png隆鼻の新しい材料とは?

今後医学はまだまだ発展し続けます。当然医療材料もいろいろ試行錯誤されるでしょう。

私が特に注目しているのが、培養軟骨です。まだ、実現はしていませんが、必ず隆鼻の材料として注目されると思います。

おそらく、少量の耳介軟骨とあなたの血液があれば、数ヶ月で20cm2程度の軟骨を作ることができるでしょう。場合によっては培養真皮や人工骨も利用されるでしょう。

再生医療は現在最も注目されている分野でもあります。近い将来、再生医療にを応用した隆鼻手術が実現するかもしれません。

隆鼻術 (前編)

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隆鼻術は鼻根部から鼻背部、鼻尖部にいたる鼻筋を整えながらこれを高めていく、古来から存続する美容外科手術です。近年、隆鼻術に関して、移植材料の多様性が出てきました。

さて、今回は、安全性や術後の感触など、どの材料、あるいはどの様な手術法が最も推奨できるのかという質問です。(前編)

Q) 隆鼻を希望しています。鼻全体が低く、特に、目と目の間の高さがほとんどありません。希望は、私の顔に合わせて自然な鼻筋です。外国の方の様な鼻筋の高さは望んでいません。
最近、相談に行ったクリニックでは、肋軟骨移植を勧めるところと、シリコーンプロテーゼを勧めるところがありました。プロテーゼはいわゆるI 型が良いそうです。また、あるクリニックでは、鼻の付け根は短めのI 型プロテーゼ、鼻先と鼻柱は耳介軟骨の移植がお勧めと言われました。中には、ゴアテックス線維の移植を勧めている所もありました。
ところで、私の友人は韓国で肋軟骨移植による隆鼻術を受けたのですが、鼻全体がカチカチに硬くて不自然と嘆いていました。肋軟骨移植での隆鼻術は一見シュッとして綺麗に見えますが、やはり硬くなるのでしょうか?
酒井形成外科でのご意見を伺いたいと思います。

A) 隆鼻を行う場合、鼻根部(鼻の目と目の間)はもとより、鼻背部も高く修正し、鼻尖部(鼻の頭)ではやや鼻先を尖らせる事が多いと思います。最近では隆鼻のために移植される物質も多様性がでてきました。シリコーンプロテーゼ、肋軟骨、ゴアテックス等が多く利用されています。
この中でも私はシリコーンプロテーゼがもっとも安全性に長けていると考えています。しかも現在のシリコーンプロテーゼはかなり柔らかく組織になじみ易くなっていて、移植後の問題点は激減しています。プロテーゼとともに鼻尖部に自家組織である耳介軟骨や筋膜あるいは真皮を使用すれば鼻尖部の形態を整えた上で安全性も確保できます。プロテーゼがもっとも優れているところは、もし、これを除去する場合、きわめて簡単に切除できることです。
移植材料に関しては研究がなされ新しいものが開発され続けています。いずれは、ゴアテックスやシリコーン、肋軟骨にかわる新しい医療材料が開発されるはずです。その時、新しい素材に変更する場合でも、シリコーンプロテーゼであれば、たやすく交換ができるでしょう。
ゴアテックスや肋軟骨は除去が困難な上に、肋軟骨では、移植後の変形も問題視されています。さらに、これらの素材は鼻尖部や鼻柱の異常な硬さも問題です。
鼻のシリコーンプロテーゼといえばL型仕様とI型仕様があります。近年I型を選択する医師が多いと思いますが、実はそれぞれ欠点と利点があります。
L型は、鼻根部を骨膜下に固定したうえで鼻中隔部にも固定できるため、プロテーゼが曲がることなく安定して固定されます。しかし、鼻尖部の皮膚に負荷がかかり易く、場合によっては皮膚の破裂やプロテーゼの脱出の合併症を招きます。
I型は、鼻根部だけで固定されるためプロテーゼが曲がり易く(プロテーゼの変位)、また、短いプロテーゼであれば、鼻尖部は軟骨の移植等で賄わねばなりません。もし、長いI型プロテーゼを使用すれば、鼻尖部はL型と全く同じになり、鼻尖部皮膚へ影響を与えてしまいます。したがって、I型プロテーゼによる隆鼻術では、短いプロテーゼを選択し、鼻根部ではプロテーゼで隆鼻を行うものの、鼻尖部は耳介軟骨の移植等で形成を余儀なくされます。この場合、プロテーゼを除去する場合は一度鼻尖部を大きく広げる必要があり、修正は面倒になります。
そこで、私は、とても柔らかいL型シリコーンと耳介軟骨や真皮を利用したハイブリッド手術を提言しています。これは、鼻根部は適度な高さのシリコーンプロテーゼ、鼻尖部は極めて薄くしたシリコーンプロテーゼに耳介軟骨と真皮をのせた状態、鼻中隔部や鼻柱部は極めて細くしたシリコーンプロテーゼに軟骨や真皮を巻きつけてシリコーンが鼻尖部皮膚を障害することを防ぎます。このハイブリッド手術では、鼻腔内の鼻柱部を少量切開するだけで簡単にプロテーゼを除去できるのが最大の特徴になります。また、鼻尖部はほぼ、耳介軟骨と真皮で形成されるため、軟骨単独移植よりとても柔らかく自然な感じが表現できるのも長所ということができるでしょう。
そして、簡単にプロテーゼが除去できることは、将来の新しい隆鼻術への変更の容易さにもつながります。

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隆鼻症例:隆鼻と鼻尖形成を希望された患者様です。シリコーンプロテーゼと耳介軟骨、真皮移植を伴うコンポジットグラフトで形成しました。

手術費用(モニター価格)50万円

合併症、リスク:感染、皮膚の血行障害、皮膚潰瘍、プロテーゼの位置異常、血腫、色素沈着、等

[コメント(前編)]

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鼻部の名称を上の図に示しました。

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鼻は上から1/3程度が鼻骨という骨組織で、またその2/3は軟骨組織で外形が構成されています。骨でできている鼻根部は硬く固定されていますが、軟骨や皮膚、軟部組織で構成されている鼻尖部や鼻柱、あるいは鼻孔縁では、とても柔らかい手触りです。

 さて、私たちの考案する隆鼻術では、以下の条件をなるべく満たすことが大切と考えています。

  1. 安全性が高いこと。
  2. 将来の新しい素材への交換性を考慮し、移植されてインプラント材料は簡単に除去できること。
  3. 手術処置は簡易で患者様になるべく負担がかからないようにすること。
  4. 美しい形態を表現できること。
  5. 長期間美しさを保持すること。

これらの条件を追求すると、現在、隆鼻のためのインプラント材料として最適なものは柔らかいシリコーンプロテーゼで、鼻尖部に膨らみがないものを選択すべきと考えました。
肋軟骨は石灰化や変形の可能性、また、移植後に著しい硬さが残ることから適材にはなりにいくいのですが、シリコーンプロテーゼが使用できない条件では、移植の対象にはなるかもしれません。

鼻尖部の形成を希望する場合は、耳介軟骨と真皮移植で鼻尖形成をおこないます。けっしてシリコーンで鼻尖部を隆起させてはなりません。

そこで、私たちは、柔らかいL型シリコーンプロテーゼの鼻尖部を薄く削り、ここに耳介軟骨と真皮を接着しコンポジット(複合体)を作成しています。これを、上は鼻骨骨膜下に、下は両側の大鼻翼軟骨の間に固定します。鼻筋は上下で固定していますので、変位することはありません。また、2箇所で固定しているため、プロテーゼがすり落ちることもありません。また、鼻尖部は直組織で作れているため、皮膚が菲薄化したり、組織が破綻することもまずありえないと考えています。

手術では、患者様に移植するコンポジットは体外で作成されるため、手術中の患者様の不快感は極めて少ないことも特徴です。コンポジットを作成することは、とても芸術的で職人技ではありますが、これさえ終われば手術は比較的簡単で短時間で終了します。しかも、将来、新しい優れた材料が発明されたとしても、簡単に交換ができるので、将来性にも問題は少ないと見積もっています。

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柔らかいシリコーンプロテーゼのの鼻尖部を削り、そこに耳介軟骨と真皮を接着し、コンポジットを作ります。

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コンプジットをインプラントするのは、比較的簡単に行えます。